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神戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)10号 判決 1985年9月30日

神戸市長田区西尻池町一丁目二番三号神戸市エンタープライズビル五階

原告

ライトマン商事株式会社

右代表者代表取締役

吉田光男

右訴訟代理人弁護士

山下顕次

神戸市長田区大道通一丁目三七

被告

長田税務署長

右指定代理人

森本翅充

杉山幸雄

阿部忠志

神谷義彦

小嶋博文

吉田真明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  神戸税務署長が、原告の昭和五〇年八月一日から昭和五一年七月三一日までの事業年度の法人税について、昭和五三年五月四日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告について

原告の前身であるライトマン商事株式会社(原告と同じ商号)は、事業目的として、<1>合成樹脂製品の製造及び販売、<2>酒類、化学薬品、繊維及び繊維製品の輸出入並びに国内販売、<3>前記に付帯する一切の業務、を定款に掲げ、化学製品及び同製造機械類等の販売並びに不動産の賃貸を業とし、青色申告書提出承認を受けた法人であった。

ところが、同社は、昭和五四年六月二一日にスター商事株式会社に吸収合併され、合併法人であるスター商事株式会社は、同日、ライトマン商事株式会社(原告)とその商号を変更した(以下、合併前のライトマン商事株式会社をも含めて「原告」という。)。

2  本件処分に至る経緯

原告は、昭和五一年九月三〇日に、昭和五〇年八月一日から昭和五一年七月三一日までの事業年度(以下「本件係争事業年度」という。)の法人税青色確定申告書に、欠損金八三八万七七二五円と記載して、原告の当時の納税地を所轄していた神戸税務署長に対し申告したところ、同署長は、昭和五三年五月四日付けで所得金額を一億〇〇九九万三二七九円、納付すべき税額を四三一〇万七五〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税額を二一五万五三〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(以下右二つの処分を合せて「本件処分」という。)。

原告は、本件処分に不服であったので、昭和五三年六月二一日に国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五五年二月一四日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3  本件処分の違法性

(一) 本件は、租税特別措置法(昭和四九年法律第一七号及び第一〇一号による改正前のもの、以下「措置法」という。)六五条の七第二項及び第三項を適用すべき場合であるのに同条項の適用を否認し、措置法六五条の七第六項(同法六五条の六第四項の準用)を適用したもので違法である。

(1) 原告は、同社が所有していた神戸市垂水区舞子坂二丁目所在の土地の一部を昭和四八年八月一日から昭和四九年七月三一日までの事業年度(以下「四九年度」という。)中に他に売却し、四九年度の確定した決算において、措置法六五条の七に規定する課税の特例の適用を受けるため、右土地の売買による利益金相当額一億四〇二八万五九八八円をいわゆる特別勘定として損金経理した。そして、四九年度の法人税の所得金額の計算上は、右特別勘定計算上額のうちの法定限度相当額一億三四六九万五九八八円を損金の額に算入して確定申告した。

(2) 原告は、昭和五〇年七月三一日クボタグリーン株式会社(以下「クボタグリーン」という。)から別紙物件目録記載の物件を前記譲渡資産の買換資産(以下「本件買換資産」という。)として、同目録記載の価格で取得し、後述のとおり、同日、本件買換資産をクボタグリーンに賃貸した。そこで、原告は、昭和四九年八月一日から昭和五〇年七月三一日までの事業年度(以下「五〇年度」という。)の確定した決算において、右特別勘定計上額を取り崩して同年度の益金の額に算入するとともに、本件買換資産の帳簿価額を損金経理により一億四〇二八万五九八八円減額して、五〇年度の法人税の所得金額の計算上は、右損金経理により減額した額のうち法定の圧縮限度額一億三四六九万五九八八円を損金の額に算入して確定申告した。

(3) 原告は、本件買換資産を取得の日である昭和五〇年七月三一日に、クボタグリーンに賃貸し原告の事業の用に供したのであるから、措置法六五条の七第二項及び第三項の適用を受ける場合に該当する。

ア 原告の事業目的は、前記定款に記載しているほか、現実には、不動産の賃貸業も営んでいる。

ところで、原告が、本件買換資産を取得するにいたった目的は、当初から本件買換資産をエラスチック部門の工場用地として賃借したい意向を有していたスターラバー工業株式会社(以下「スターラバー」という。)に賃貸し、長期間にわたり継続的に安定した賃料収入を確保することにあった。

イ このように、原告は、本件買換資産をスターラバーに賃貸することを目的としていたが、昭和五〇年七月三一日クボタグリーンに本件買換資産(一部は原告が使用)を賃料一〇〇万円・期間三年で賃貸し、かつ、クボタグリーンが久保田鉄工株式会社(以下「久保田鉄工」という。)に転貸することを承認した。その事情は以下のとおりである。

すなわち、クボタグリーンは、本件買換資産を久保田鉄工に賃貸していたが、クボタグリーンの累積赤字を解消するため本件買換資産を原告に売却したものの、賃借中の久保田鉄工(環境装置事業部)が他に移転するには二ないし三年の期間を必要とした。他方、原告としても、スターラバーの工場進出・移転には少くとも一ないし二年間の準備が必要でその間本件買換資産を遊休状態におくことはできず、他方、クボタグリーン・久保田鉄工ならば本件買換資産を賃借し、かつ期間満了時に確実に立ち退き、しかも賃料収益も確実であることから、クボタグリーンと賃貸借契約を締結し、かつ久保田鉄工の転借を承認した。

なお、原告が、本件買換資産を売買により取得することにつき、地元住民の強い反対があったが、地元住民の反対感情を刺激せず右売買契約を締結していないようにみせるため、原告とクボタグリーンとの間で賃貸借契約を締結したものではない。

(二) 被告は、本件処分の理由を以下のように変えているが、このように理由をさしかえることは、納税者の利益を害することとなるので、本件処分は違法である。

(1) 被告は、当初次官通達に基づいて、本件買換資産を購入先であるクボタグリーンに賃貸することは、それ自体で買換資産を原告の事業の用に供したことにあたらないというものであった。

(2) 右解釈は、その後、東京地方裁判所昭和五四年六月二〇日判決・行裁集三〇巻六号一一五一ページにより否定されたため、被告は、まず、本件買換資産所在地において原告自身使用していないことを、次には、本件買換資産を貸与することにより十分な利益を得ていないことを(したがって賃貸借契約とは認められない)、そして最後には、クボタグリーン及び久保田鉄工と原告とが共謀して脱税のため本件買換資産の売買契約及び賃貸借契約を締結したかのように装ったことを、仮に装ったものではないとしても本件賃貸借契約は一時的臨時的なものであることを、それぞれ本件処分の理由とした。

4  以上のように、本件更正処分はいずれの点からみても違法であるから、原告は前記請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が化学製品及び同製造機械類の販売を行ってきたことは不知。原告が不動産貸付けを業としていることは否認する。なお、不動産貸付けは定款に記載されていない。その余の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3について

(一) (一)の冒頭の主張は争う。(1)の事実のうち、原告が四九年度の法人税の所得金額の計算上、特別勘定に繰り入れ損金の額に算入して確定申告したのは一億四〇二八万五九八八円であり、その余の事実は認める。(2)の事実のうち、原告が本件買換資産をクボタグリーンに賃貸したことは否認し、その余の事実は認める。ただし、原告が五〇年度の法人税の所得金額の計算上損金経理により減額して確定申告したのは一億四〇二八万五九八八円である。(3)の冒頭の主張は争う。アの事実のうち原告が不動産貸付けを業としていることは否認し、その余の事実は不知。イの事実のうち原告とクボタグリーンとの間で原告主張のような内容の賃貸借契約と題する書面が作成されたことは認めるが、右書面により賃貸借契約が真実成立したとの主張は争う。その余の事実は不知。

(二) (二)の主張は争う。

4  請求原因4の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件係争事業年度の所得金額

原告の本件係争事業年度の所得金額及びその内訳は、次のとおりである。

<1> 申告所得金額 欠損金 八三八万七七二五円

本件係争事業年度の申告所得金額である。

<2> 加算金(圧縮相当額) 一億三一九三万三七二八円

 土地(措置法施行令三九条の六第一〇項) 九一五三万五七五〇円

 建物(同法施行令三九条の六第一〇項) 四〇三九万七九七八円

計算は別紙計算式のとおりである。

<3> 減算金額(繰越欠損金控除) 一七五五万二七二四円

本件係争事業年度の前年度(五〇年度)における欠損金額である。

<4> 差引合計所得金額 一億〇五九九万三二七九円

右<2>から欠損金<1>と<3>を合計したものを差し引いたものである。

2  本件更正処分の内容

原告はその所有していた土地を二億三七一〇万八五六五円で四九年度中に他に売渡し、右譲渡対価のうち一億三四六九万五九八八円(修正申告に基づく金額、以下「修正申告に基づく金額」という。)を四九年度の法人税の所得金額の計算上、措置法六五条の七第一項の規定により特別勘定によって経理していたところ、昭和五〇年七月三一日クボタグリーンから本件買換資産を二億六六〇〇万円で取得したとして五〇年度の法人税の所得金額の計算上、措置法六五条の七第二項及び第三項の規定を適用し前記一億三四六九万五九八八円を益金の額に算入するとともに、同金額を損金経理により本件買換資産の帳簿価額より減額する経理をした。

被告は、原告が本件買換資産を取得後一年以内に事業の用に供していないとして措置法六五条の七第六項の規定(同法六五条の六第四項の準用)により本件係争事業年度の法人税の所得金額の計算上、原告が本件買換資産の帳簿価額より減額して損金の額に算入した圧縮相当額を益金の額に算入した。

3  本件更正処分の適法性

原告が、本件買換資産をその事業の用に供したとはいえないので、圧縮相当額を益金の額に算入して行った本件更正処分は適法である。

(一) 原告が、本件買換資産を取得するにつき地元住民の間に根強い反対があった。そこで、原告は、クボタグリーンから本件買換資産を取得するに先だち、表面上は右売買が存在しなかったことを装うため、クボタグリーンに本件買換資産中別紙物件目録二の建物並びに付属施設及び右建物等に付属する土地(以下「本件賃貸物件」という。)を賃貸するが、クボタグリーンは本件買換資産を従前のとおり使用すること、原告とクボタグリーンは右売買に引き続き地元住民に対する説得工作を行うが、地元住民の同意が得られないときは右売買契約を解除すること、原告が右賃貸借契約解除の申入れをしたときはクボタグリーンは直ちに本件賃貸物件を原告に引き渡すこととする基本的合意をした。

(二) 右合意に基づいて、原告とクボタグリーンとの間に昭和五〇年七月三一日、土地建物売買契約書、土地建物賃貸借契約書及び覚書が作成された。

(三)(1) 右売買契約は国土利用計画法二三条による届出を停止条件とする売買契約のように見受けられる(同契約書一三条)ところ、原告は右届出をしていない。

(2) 本件買換資産を右売買契約書の発効と同時に引渡しをする(同契約書五条)としているが、右賃貸借契約書によると昭和五〇年七月三一日付けをもって本件賃貸物件を賃貸することとしている(同契約書一条)。したがって、本件買換資産を売買したり賃貸借したとしても、本件買換資産の利用状況にはなんら変化がなかった。

(3) 原告が、本件買換資産を取得するにつき、原告らにおいて地元住民を説得できない場合は、右売買契約を白紙還元する旨の取決めがあり(前記覚書八条)、結果的には地元住民の説得工作は不成功に終り、したがって、昭和五二年八月二七日に右売買契約は合意解除された。

(4) 本件賃貸借契約は、昭和五二年八月二七日本件売買契約の合意解除に伴って解約されたが、原告がクボタグリーンから現実に受領した賃料は、昭和五〇年七月三一日から同五一年七月三一日までの一か年分計一二〇〇万円であって解約されるまでの残余の一か年分については受領していない。また本件売買契約や本件賃貸借契約が早晩合意解除されることを予測し、本来、賃貸借契約は継続的使用関係であるから契約の効力を遡及して失わせることはできないにもかかわらず敢えて遡及的に失効することを定め、その結果、原告は受領した賃料をクボタグリーンに返還し、本件買換物件の移転は勿論、金員の授受等全てについてなんら変動のなかったようにした。

(5) 以上からすると、原告が本件買換資産を取得したこと自体極めて疑わしいのみならず、仮に原告が本件買換資産を取得したことが認められるとしても、右取得は極めて不安定な状態にあり、右売買契約及び賃貸借契約は原告において専ら圧縮記帳の適用を受け租税負担を回避する目的のために行われたものといわざるをえない。

(四) 原告が、クボタグリーンに本件賃貸物件を賃貸したとしても、原告の事業の用に供したとはいえない。

(1)ア 特定資産の買換えの場合の課税の特例規定は、昭和三八年の税制改正により創設されたもので、当時の貿易自由化の拡大、国際収支の動向等の経済状勢の推移にかんがみ、社会資本の充実とともに民間企業における産業設備の整備強化を急速に行うことがわが国経済にとって当面緊急であると考えられることから、譲渡所得に係る課税を延期することにより、設備の更新による産業設備の合理化、近代化、工場移転による産業立地の改善その他一般に資本の活用を図ることを目的として創設されたものである。

したがって、同規定は、産業設備を整備・更新して資本の活用を図ることを目的としていることから、措置法六五条の六第四項に規定する買換資産を「当該法人の事業の用に供した」というためには、当該法人の本来の事業である経営活動のために利用されたことを要するものと解すべきである。

イ 原告の定款に記載された事業目的は、請求原因1に記載のとおりであり、不動産貸付け以外の事業目的を有する法人にすぎない。実際の業務内容に不動産賃貸による賃料収入はあるものの、その賃料収入の内容はマンションの賃貸に係るもので、本件買換資産のような土地及び工場あるいは倉庫用の建物の賃貸に係るものではない。しかも、右賃料収入の収入金額も四九年度は三〇〇万四六三九円、五〇年度は三三六万三四五五円にすぎず、同金額は、同各事業年度の商品売上金額五二一三万三〇三七円、二六三二万六二四〇円と比較して極めて少ない。

したがって、不動産貸付けをもって、原告の主たる事業、本来の事業とはいえない。

ウ また、原告は、従前から久保田鉄工が本件買換資産をクボタグリーンから賃借して工場用地として使用していること、原告が本件買換資産を取得した後においても久保田鉄工において本件買換資産を使用する必要があることを承知していた。事実、原告が、本件買換資産をクボタグリーンから取得して、即日同社に賃貸し、さらにクボタグリーンから久保田鉄工に転貸借がされ、同社において引き続き使用していた。

このように、原告は、本件買換資産の従前の利用状況につきなんらの変化も生じさせていないもので、本件特例の立法趣旨である産業設備の整備・更新をして資本の活用を図ったものということはできない。

エ 以上からして、原告の本件買換資産の賃貸をもって、措置法六五条の六第四項に定める「当該法人の事業の用に供した」ものということはできない。

(2)ア 買換資産を当該法人の事業の用に供したといえるためには、本件特例の立法趣旨及び措置法六五条の六第四項の規定からみても、工場用地として当該法人の事業の用に供するとか、あるいは他に貸し付ける場合にあっては、原則として相当の対価を得て反復継続的に行われることを要する(租税特別措置法関係通達六五の七(二)-一)。

原告は、化学製品等の卸売業を営むかたわら不動産(マンション)の賃貸による収益をあげていたのであるから、原告において事業の用に供するとは右化学製品等の倉庫として使用するなど原告自ら使用するか、あるいは相当の対価を得て営業活動として反復継続的に他人に賃貸する場合をいうものである。

しかしながら、かかる観点よりみると、原告は、以下のとおり、本件買換資産を事業の用に供しているとはいえない。

イ 原告とクボタグリーンとの間の本件買換資産の貸借関係の実質は、相当の対価の伴わないむしろ一時的な使用貸借にすぎない。

(ア) 原告とクボタグリーンとの間の本件貸借物件の「土地建物賃貸借契約書」には、右賃貸借契約の解除に遡及効を認め、当該契約が解除された場合にはクボタグリーンは本件貸借物件の引渡しを受けなかったこと、原告は既に受領した賃料を返還することを定めていた。

そして、事実昭和五二年八月二七日右賃貸借契約が解除され、原告はこのときまでに受領していた一二〇〇万円をクボタグリーンに返還した。

(イ) 原告は、クボタグリーンに対し、昭和五〇年七月三一日本件買換資産の売買代金二億六六〇〇円の内八〇〇〇万円を支払い、残代金については六通の約束手形を交付し、右手形のうち二通計六二〇〇万円は決済された。そして、残代金についての利息は、昭和五〇年八月一日から決済完了までの間年一〇パーセントの割合により支払うこととした(ただし、公定歩合の変動に応じて金利決済日ごとに精算する。)

結局、原告が、クボタグリーンに支払わねばならない金員は売買代金の利息三二六三万〇六八二円、固定資産税二六五万円及び火災保険料約二五万円の計三五五〇余万円となる。他方、貸借期間は三年と定めたので、この間原告が受領すべき賃料名義の金員は三六〇〇万円となり、両者はおおむね一致させられるべく定められ、原告が本件買換資産の取得維持に要した費用をクボタグリーンが賃料名義で原告に支払ったことになる。

さらに、原告が、クボタグリーンから受領した賃料名義の金員は、昭和五一年一月に六〇〇万円、同年七月に六〇〇万円の計一二〇〇万円であり、他方、原告が売買残代金の利息として支払った金員は、昭和五一年一月に八四二万八六〇一円、同年七月に六五六万九四五二円の計一四九九万八〇五三円となる。

その後、原告及びクボタグリーンは、賃料あるいは利息を支払うことなく、昭和五二年八月二七日、本件買換資産の売買契約は解除され、本件貸借物件の貸借関係も終了した。

(ウ) 以上の事実からして、右契約の解除に遡及効を認めた原告らの真意は、貸借関係が終了したときは原告において既に受領している賃料名義の金員を返還することにあったこと、原告及びクボタグリーンにおいて貸借関係は早晩終了(二ないし三年位で)すること、並びに右契約の終了とともに当事者間においてはおよそなんらの金員の動きもなかったようにすることが、予定されていた。

にもかかわらず、久保田鉄工がクボタグリーンに対し転借料として昭和五一年一一月まで月額一二〇万円計一九二〇万円を支払い、久保田鉄工が本件買換資産を使用していたことは否定できない。したがって、原告とクボタグリーンとの間の本件買換資産の貸借関係は実質的には暫定的・一時的な使用貸借にすぎない。

ウ 仮に、本件買換資産の貸借が実質的に無償でないにしても、相当の対価をえたものとはいえない。

(ア) まず、原告がクボタグリーンに貸した本件買換資産の範囲についてみるに、クボタグリーンは、本件買換資産を原告に売却する以前からこれをすべて久保田鉄工に賃貸し、同社の環境装置事業部は、右買換資産を倉庫・資材置場として使用してきたもので、右環境装置事業部が他所に移転するまで同社は本件買換資産を使用する必要があった。それ故、同社が、クボタグリーンから本件買換資産を転借した形をとったときも、その使用形態になんらの変更はなかった。

また、本件買換資産である土地の周囲は柵で囲まれており、出入口は一か所のみであった。しかも、前記賃貸借契約に付随して交された覚書に基づき、クボタグリーン及び久保田鉄工は、本件賃貸物件以外の土地にも無償で立ち入り又は使用することができ、本件買換資産を管理するため、クボタグリーンの費用負担により管理人を置き、原告が、本件買換資産内に立ち入る場合はクボタグリーンあるいは久保田鉄工の承認を受けることとされ、原告は右土地内に自由に立ち入ることはできなかった。事実、原告が右場所に立ち入ることは皆無であった。

次に、仮に、原告が本件買換資産上にボビン・加硫釜・モーター等を置いて使用していたとしても、ボビンはその性質上建物内に保管しているはずであり(仮に五ないし六万個のボビンを外に置いていたとしても、その保管面積はわずか九平方メートルにすぎない。)、他は第三者所有物が建物内に保管されていた。そして原告は、久保田鉄工の許可を受けて本件買換資産の上に物を置いていた。

このような事実から当事者の真意をみるならば、原告は、本件買換資産全部を貸し、これに対しクボタグリーンは月額一〇〇万円を支払うことを約したといわねばならない。

すなわち、相当の対価を考えるについての対象となる物件は、本件買換資産全部である。

(イ) そこで、本件買換資産全部についての相当賃料額を検討する。

措置法六五条の七にいう「事業」とは、営利を目的として反復継続して行うことをいうところ、右の営利とは、取引の社会通念上、減価償却費、固定資産税、金利その他必要経費を差し引いてなおかつ利益を生ずることをいうものである。

本件において、原告の本件買換資産の取得価額は二億六六〇〇万円であり、これを銀行の定期預金・年利七・七五パーセント(本件賃貸借契約締結時の昭和五〇年七月三一日現在の一年定期預金利率)として預け入れた場合、その一年分の預金利子は二〇六一万五〇〇〇円となる。他方、原告がクボタグリーンから受領する一年間の賃料収入一二〇〇万円は、これから減価償却費三七五万五五〇四円、固定資産税九七万一四八〇円、火災保険料八万一〇九〇円などを控除しなければならないから、右預金利子二〇六一万五〇〇〇円をはるかに下廻る七一九万一九二六円となり、右金額は相当の対価といえない。

また、原告が本件賃貸借契約を締結した昭和五〇年七月三一日現在において、予想される本件買換資産のクボタグリーンへの貸付けに伴う収支は次表のとおりであり、月額一〇〇万円年額一二〇〇万円の賃料では毎年約二〇〇〇万円の損失が生じることとなり、著しく経済的合理性を欠くこととなるのである。かかる点からみても、右金額は相当の対価といえない。

<省略>

右表の算定根基は、次のとおりである。

<1> 受取賃料は、本件賃貸借契約に基づいて計算した。

<2> 減価償却費は、本件買換資産中の建物に関するものであり、原告が採用している耐用年数三五年、定率法の償却率〇、〇六四に基づいて計算した。

<3> 固定資産税は、本件買換資産についての固定資産税及び特別土地保有税であり、賃料の期間に対応するものである。

<4> 支払金利は、原告の本件買換資産の取得時の財産状態から、本件買換資産の代金の支払いはすべて借入金によって支払われるものとして計算した。

内訳は<ア>のクボタグリーンに対するものは、本件買換資産の代金を分割払いによって支払うことによる支払利息であり、本件売買契約書四条の記載に基づいて計算した。(ロ)の金融機関からの借入に対するものについては、クボタグリーンに対する代金の支払いのつど、金融機関から借入れを行うものとし、利率は昭和五〇年七月三一日現在の金融機関の貸出利率一〇パーセントに基づいて計算した。

<5> その他の経費は右<2>及び<3>以外の費用で本件賃貸に要する費用である。通常は賃貸に伴う管理費、損害保険料などをいうが、表の計算においては、昭和五〇年度において火災保険料八万一〇九〇円を計上した。

さらに、クボタグリーンは、昭和四九年八月に本件買換資産を久保田鉄工に月額二六〇万円で賃貸しているところ、同社の本件買換資産の使用状況は、そのころから昭和五一年一一月まで変動はない。それにもかかわらず、昭和五〇年七月三一日にクボタグリーンと久保田鉄工との間で、賃料月額一二〇万円と低く変更されたのは奇異である。

(ウ) 以上から、月額一〇〇万円の賃料は、相当の対価と解することはできず、右金員の授受は負担付使用貸借であって、措置法六五条の七に規定する「事業の用に供した」ことにはならない。

(エ) 仮に、原告が、本件賃貸物件を月額一〇〇万円で賃貸し、残余を無償で使用させていたとしても、右無償使用貸借した不動産は、無償である以上「事業の用に供した」ものとはいえない。そして、本件賃貸物件を月額一〇〇万円で賃貸したことについても、右対価は措置法にいう「事業の用に供した」ということができる相当の対価でないことは別紙一覧表記載のとおり、一年目の諸費用が一三七四万〇五三四円なのに、年額一二〇〇万円の賃料収入では年額一七四万〇五三四円の欠損が生ずることからも明らかである。

したがって、原告が、クボタグリーンに賃貸した対象物件が本件賃貸物件に限るとしても、相当の対価をえているとはいえないので、原告は、本件買換資産を「事業の用に供した」ものということはできない。

エ 原告とクボタグリーンとの間の貸借関係は一時的・臨時的であり、継続的ではない。

(ア) クボタグリーンは、本件買換資産をみずから使用する計画・必要性は全くなかった。他方、本件買換資産を使用していた久保田鉄工の環境装置事業部は、約二年先を一応の目途に他所に移転することが決定しており、その間暫定的に使用する必要があった。

昭和五一年一一月にクボタグリーンと久保田鉄工との転貸借契約は解除された。久保田鉄工が移転した後、本件買換資産はそのまま放置されていたが、原告は、本件買換資産所在地域に原告を含む他企業が工場進出することは困難と判断し、昭和五二年八月になってはじめて原告とクボタグリーンとの貸借関係を解除した。なお、原告がクボタグリーンから賃料を受領したのは昭和五一年七月分までである。

(イ) 原告は、本件買換資産をスターラバーに継続的に賃貸し原告の事業の用に供するために取得したと主張するが、同社に本件買換資産を賃貸していないのみならず、同社において本件買換資産で営業活動のできる客観的状況はなかった。

かつて、訴外竹原化成工業株式会社(以下「竹原化成」という。)が、本件買換資産中の土地を地元住民から取得した際、地元住民と取り交わした誓約があり、竹原化成以外の企業が本件買換資産等において営業することは、いわゆる土地ころがしともなり右誓約に反する。

また、スターラバー(原告同様訴外吉田光男の支配するいわゆるワンマン会社)は、ゴム製造・合成樹脂製品の製造並びに販売等を目的とする会社である。ゴム等化学製品の製造工場立地につき重要なことは、排水、廃液処理の可能性、地元住民の生活環境に対する影響等であるが、本件買換資産は排水・廃液の処理が十分でなく、ゴム等化学製品を製造することが不適当であった。

工場移転に先だち右のような点につき十分調査することは、経営者の常識であり、したがって、スターラバーは本件買換資産に工場を移転することが不可能であることを了知していたはずである。

(ウ) さらに、原告が、本件買換資産を取得するに際し、国土利用計画法による届出をせず、本件買換資産を他に転売する予定すらしていた。

(エ) 以上から、原告とクボタグリーンとの貸借関係は当初より一時的・誓定的なものとして予定されていたので、対価の点を除外しても、賃貸したことのみをもって、措置法六五条の七に規定する「事業の用に供した」ことにはならない。

4  本件更正処分の理由について

(一) 被告は、昭和五三年一月三一日更正処分等をしたが、その理由の記載が不十分であったので、同年五月二日これらを取り消し、同月四日再度更正処分(本件更正処分)等をした。

(二) 本件更正処分等の理由としたところは、原告がクボタグリーンに月額一〇〇万円で賃貸しているが、これは特定資産の買換えの場合における法人の事業の用に供したものに該当しないこと、土地の一部に置かれていた材料スクラップは原告の仕入れ並びに棚卸資産に計上されておらず、スターラバーのスクラップ置場として無償で一時利用させたもので、原告の事業目的である合成樹脂製品等の製造販売の事業の用に供していないことから、本件買換資産取得の日から一年以内に事業の用に供した事実がないというものであった。

(三) 本件における被告の主張は、原告とクボタグリーンとの本件買換資産の貸借関係は実質的には一時的な無償の使用貸借にすぎないこと、無償でなくても月額一〇〇万円は相当の対価にあたらないから負担付使用貸借にすぎないこと、あるいは右貸借は一時的臨時的であって継続的でないことなどから、原告は本件買換資産をその取得後一年以内に事業の用に供していないというにあり、右主張は本件更正処分等の理由とした事実を詳細に主張し、その事実に対する法的評価をしたにすぎないのであって、本件処分理由と異なる新たな理由を主張したものではない。

5  以上のとおり、本件買換資産の売買、賃貸借は、極めて不自然・不合理な条項を含む契約書、覚書によって実行され、本件買換資産の取得自体仮装的であるが、仮に真実行われたとしても極めて不安定で一時的なものであり、貸借関係も一時的・臨時的で、賃料も実費弁償に満たないことから、その取得後一年を経過した日を含む本件係争事業年度に事業の用に供したとは到底いえないにもかかわらず、原告は、本件買換資産を事業の用に供した外観を作って圧縮記帳による損金算入を行い、かつ、右損金算入額の益金算入時期を引き延ばして租税負担を回避した。

よって、本件買換資産につき措置法六五条の七第二項及び第三項の適用を否認した本件更正処分は適法である。

また、本件賦課決定処分は国税通則法六五条一項に基づくもので、なんら違法ではない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1の事実のうち申告所得金額は認め、その余は争う。

2  被告の主張2の事実は、土地の売却代金を除き認める。

3  被告の主張3について

(一) 冒頭の主張は争う。

(二) (一)の事実のうち、原告が本件賃貸物件をクボタグリーンに賃貸した事情が地元対策にあったことは、強く否認する。

(三) (二)の事実は認める。

(四) (三)(1)の事実のうち、届出をしていないことは否認する。原告及びクボタグリーンは、昭和五〇年八月八日小野市役所内の建設部計画課に国土利用計画法二三条に基づく届出をした。(4)の主張は争う。原告及びクボタグリーン間のそれぞれの事業計画に基づく売買であり、不安定ではない。事実、クボタグリーンは右売買に基づく所定の租税を納付した。

(五) (四)(1)の主張は争う。原告は、その前身であったオリエンタル商事有限会社時代には「不動産の売買及び賃貸」をも目的に掲げ、当時の同社の収入のほとんどは家賃収入であった。原告会社になってからも不動産の売却益及び家賃収入が主である。家賃及び敷金収入金額は四九年度は三二九万七一三五円、五〇年度三六六万三四五五円で、同年度の商品売上粗利益金額八五万二七九七円、二〇一万八〇三五円を大きく上回っていた。

(六) (四)(2)の主張は争う。イ(イ)の原告が受領すべき金員とクボタグリーンに支払わなければならない金員とは一致させていたとの主張は強く争う。一致を考えていれば、公定歩合の変動に応じて精算することはしていない。ウ(ア)の建物内の第三者所有物とは、将来同所に進出した際使用することにしていたスターラバーのもので原告が保管していた。ウ(イ)の「相当の賃料」についての被告の計算方法は、現実の市場経済を無視した机上の空論にすぎない。特に、当時は公定歩合の長期下降傾向は常識化し、それに伴って定期預金金利(一年もの)も昭和五〇年八月一日七・七五パーセント、同年一一月四日六・七五パーセント、昭和五二年五月六日五・七五パーセントと下降していた。表中クボタグリーンに対する支払利息は、公定歩合に連動させたため、五〇年度で二一三万五六〇二円、五一年度で二〇七万一四七九円、五二年度で一七八万八九三〇円少ない。エ(イ)のうちゴム製品が水に溶けて流れることはありえない。

4  被告の主張4及び5は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1の事実のうち、原告が化学製品・同製造機械類の販売を行ってきたこと及び不動産貸付けを業としていることを除くその余の事実、同2の事実、被告の主張1の事実のうちの原告の申告所得金額並びに同2の事実のうち土地の売却代金を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告会社の経歴について

右当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第一三号証、乙第一六、第一七号証、第三二ないし第三四号証、証人岡田覺の証言及び原告会社代表者吉田光男代表者尋問(第一回)の結果を総合すれば、原告会社は、当初はオリエンタル商事有限会社として昭和四二年八月二八日に設立され、事業目的も不動産の売買及び賃貸、プラスチック・ゴム・化学薬品の製造販売、その他右に付帯する業務としていたが、昭和四九年二月一日にその目的を請求原因1記載のとおりに変更したこと、昭和四九年五月三一日にライトマン商事株式会社と組織変更したため、オリエタル商事有限会社は解散したこと、ライトマン商事株式会社が不動産売買及び賃貸を会社の定款目的から削除したが、現実には不動産の賃貸をも継続して行っていたこと、その後、ライトマン商事株式会社は、昭和五四年六月二一日スター商事株式会社に吸収合併され、合併法人であるスター商事株式会社は、同日、ライトマン商事株式会社とその商号を変更したことの事実を認めることができ、右認定を妨げるに足る証拠はない。

三  本件更正処分の適法性

1  原告が所有していた神戸市垂水区舞子坂二丁目所在の土地の一部を四九年度中に他に売却したこと、原告が、昭和五〇年七月三一日クボタグリーンから本件買換資産を取得したこと、その際被告主張の土地建物売買契約書、土地建物賃貸借契約書及び覚書が作成されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第七号証の二、乙第一ないし四号証、第六号証の一ないし四、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし四(以上の乙号証はいずれも原本の存在及び成立について争いがない)、第一二ないし第一五号証、第一八、第二〇、第二三号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第三五ないし第三七号証、第三九号証、証人岡田覺の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一、二、原告会社代表者吉田光男代表者尋問(第二回)の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五、第一一、第一九号証、証人仁後圭助の証言により真正に成立したものと認められる乙第二八号証の一ないし五、第三〇号証の三、四、被写体については当事者間に争いがなく、撮影者及び撮影年月日については弁論の全趣旨により被告主張のとおりと認められる検乙第一、第二号証、証人岡田覺(ただし以下の認定に反する部分は措信しない。)、同永末明男(同)、同田中一雄及び同仁後圭助の各証言、原告会社代表者吉田光男代表者尋問(第一ないし第三回)の結果(ただし以下の認定に反する部分は措信しない。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件買換資産を含む付近一帯の土地は、竹原化成が昭和四二年から昭和四八年九月にかけて兵庫県小野市に工場進出するために買い入れた土地である。竹原化成は、その間の昭和四五年三月に、本件買換資産を久保田農興株式会社(クボタグリーンの前の商号)に売却したが、この久保田農興株式会社は、竹原化成と久保田鉄工とが共同出資して水排栽培設備を研究開発するために設立した会社であった。しかし、久保田鉄工側のその後の営業方針の変更に基づき、本件買換資産上の工場は、昭和四八年一〇月一日に閉鎖されたので、竹原化成としては、本件買換資産を買い戻すことを希望し、昭和四九年五月ころ久保田農興株式会社と交渉したが、結局買い戻すことはできなかった。

(二)  他方、スターラバー(ゴム製品の製造販売)は、工場が狭くなったため昭和四七、四八年ころ工場移転計画をたて工場用地を物色していたところ、久保田農興株式会社が、本件買換資産上の工場を閉鎖することを聞き、同社と折衝し一旦は売買契約がまとまりかけたが、久保田農興株式会社の都合で本件買換資産の購入は白紙還元された。

(三)  その後、久保田農興株式会社は、久保田鉄工の子会社である株式会社サンエーの一〇〇パーセント子会社のクボタグリーンとして生れ変ったが、クボタグリーンは、昭和四九年八月に久保田鉄工に本件買換資産(工場設備一式を含む)を月額二六〇万円で賃貸した。久保田鉄工は、同所を同社の環境機器事業部の資材等の保管場所として使用していたが、同所においては生産活動はしていなかった。

(四)  ところが、原告は、昭和四九年度にその所有の神戸市垂水区舞子坂二丁目所在の土地の一部を他に売却したこともあって、昭和五〇年春ころから同売却地に代る本件買換資産の取得を決意し、クボタグリーンとその売買交渉をした。他方、久保田鉄工側としては、仮にクボタグリーンが本件買換資産を売却したとしても同所を使用する必要があるので、同所を明け渡す意図はなかったが、クボタグリーンとしては従業員を抱え赤字経営であったことから売却を希望し、結局、久保田鉄工が本件買換資産を引き続き賃借することを条件に同物件を原告に売却することとした。

その結果、原告にとっては法人税法上の圧縮記帳の特典をうけることのできる最終日の昭和五〇年七月三一日に、原告とクボタグリーンとの間において、本件買換資産の売買契約と賃貸借契約を締結し覚書も取り交された。

(1) 売買契約の内容は次のとおりである。

<1> 売買代金は二億六六〇〇万円

<2> 売買代金の支払方法は、頭金として昭和五〇年七月三一日に八〇〇〇万円を支払い、昭和五一年一月三一日を第一回として六か月ごとにそれぞれ三一〇〇万円を六回に分割して支払う。

<3> 右支払のため、原告は頭金につき昭和五〇年七月三一日振出の小切手を、残金について原告を振出人とする約束手形六通を本件売買契約締結と同時にクボタグリーンに交付する。

<4> 分割して支払う各代金については、昭和五〇年八月一日から完済するまでの期間、未払残金に対し年一〇パーセントの割合による利息を支払う。右一〇パーセントの利息は、公定歩合が変動した場合には公定歩合に二パーセントを加えた利息として計算する。

<5> 本件買換資産の引渡しは、本件売買契約と同時に履行するが、売買代金額支払までに本件売買契約が解除されたときは当初から引渡しがなかったものとして処理する。

<6> 本件売買契約は、国土利用計画法の届出以降期間満了を停止条件とする。

(2) 賃貸借契約の内容は次のとおりである。

<1> 賃貸借物件は別紙物件目録二の建物、同建物に付属する土地、ガス、水道、電気設備等一切で現状有姿のまま賃貸借する。

<2> 賃貸借期間は昭和五〇年七月三一日から昭和五三年七月三一日までとする。

<3> 賃貸借料は月額一〇〇万円とし、毎年一月末日及び七月末日に各支払う。

<4> 原告は、クボタグリーンが右賃貸借物件を久保田鉄工に転貸借することを承諾する。

<5> 原告及びクボタグリーン間における前記売買契約が解除されたときは、本件賃貸借契約は契約当初にさかのぼって解除されたものとみなし、クボタグリーンが原告に支払った賃借料を原告はクボタグリーンに即時返還する。

(3) 覚書の内容は次のとおりである。

<1> クボタグリーン及び久保田鉄工は、前記賃貸借物件以外の土地(原告使用中の部分は除く。)について無償で立ち入り又は使用することができる。

<2> 本件買換資産の管理は、クボタグリーンの管理人がし原告が本件買換資産内に立ち入る場合にも同管理人の承認を受ける。

<3> 前記売買契約についての地元住民の同意をうるための説得工作は原告の責任で行い、クボタグリーンはこれに協力する。右説得工作が不調に終った場合は、右売買契約は白紙還元する。

<4> 前記売買契約が国土利用計画法に基づき不許可等効力を妨げる事由が生じ、同契約が白紙還元されたときは、原告が支払った頭金八〇〇〇万円は金利を付けないですみやかに返還する。

(五)  原告は、昭和五〇年七月三一日付けで神戸税務署長に対し原告が本件買換資産を事業の用に供するまでには相当の時日を要することから、昭和五二年七月三一日まで期限の延長を申請した(税務署の受付日付けは昭和五二年一一月二八日となっている。)。

(六)  クボタグリーンは、前記賃貸借と同時に原告の承認を得て当該賃貸借物件を久保田鉄工に賃貸借期間三年、賃貸借料月額一二〇万円で転貸し、久保田鉄工は、前記(三)記載のとおりの使用をした。

(七)  原告は、昭和五〇年八月八日国土利用計画法二三条一項の届出をするため小野市役所に赴いたが、市当局は地元の了承が得られるまで届出の受理を留保したことから、結局同届出はされなかった。

(八)  ところで、本件買換資産は金網フエンス及び鉄条網で囲まれた土地上に工場一棟、事務所一棟が建っているほかは空地であり、その出入口は南側公道に接した一か所だけであった。

そして同所の管理は、昼間はクボタグリーンの従業員が担当していたが、同従業員は本件買換資産の所在地には常駐せず物品の搬出入時にだけ門の開閉等のため大阪市西淀川区にあるクボタグリーンの事務所から本件買換資産の所在地に出向いていた。夜間は、クボタグリーンにおいてガードマンに管理を委託していた。

(九)  本件買換資産の使用状況は、久保田鉄工において前記賃貸借物件を資材等の保管場所として使用したほかは原告使用中の部分を除き遊休状態であった。そして、原告使用部分は、工場内の一部分を機械類(ロールカレンダー、モーター等)及びボビン等の保管に使用し、同工場建物のほか、北東部分にもボビン等を置いていた。工場内の使用面積は工場全体の面積の四分の一くらいであり、同工場外側部分の使用面積は原告使用の工場内面積の半分にも満たなかった。

(一〇)  ところで、小野市当局は、原告及びクボタグリーン間の前記売買につき地元住民の同意をうることが困難となったことなどから、昭和五一年八月ころから原告に対し前記売買を解除してはどうかとの行政指導、及び本件買換資産に代るべき土地の斡旋をした。

(一一)  原告としても地元住民の了解をうることがむつかしいと判断し、昭和五二年一月ころクボタグリーンとの間において、金銭の授受を一旦中止した。

(一二)  右事情からして、原告は、前記(四)(2)に記載した賃貸料として昭和五一年一月及び同年七月にそれぞれ六〇〇万円合計一二〇〇万円を収受し、会社経理上収益に計上する一方、前記(四)(1)に記載した利息として同年一月に八四二万八六〇一円、同年七月に六五六万九四五二円をそれぞれ支払い、会社の経理上費用として計上したが、昭和五二年一月及び同年七月に収受すべき賃貸料並びに支払うべき利息については、いずれも収受、支払又は決済されていない。

(一三)  原告及びクボタグリーンは、本件買換資産の売買につき地元住民の同意がえられなかったことから、昭和五二年八月二七日前記売買契約及び賃貸借契約を合意解除した。

3  ところで、特定資産の買換えの場合の課税の特例規定は、昭和三八年三月(昭和三八年法律第六五号)に被告主張のような趣旨のもとに立法されたものであるが、同制度については、<1>買換えの認められる範囲がきわめて広く、租税特別措置としての政策目的が必ずしも明らかでないという根本的な問題があったこと、<2>土地の不急需要を招いたり、過密地域内での買換えや過密地域外から内への買換えにも特例の適用が認められるなど、土地政策上も好ましくない結果を生じていたこと、<3>譲渡代金以上の資産を購入して事業を拡張した場合には全く課税されないが、譲渡代金の一部を資産の購入にあてなかった場合のように事業を縮小した場合には課税されるという不公平が生じていたことなどから、昭和四四年度の税制改正に際し、従来の右特例の制度を廃止するとともに、土地政策又は国土政策に合致すると認められる買換えに限って、その課税の特例を認められることとされた(昭和四四年法律第一五号)。

このように、右特例は、民間企業における産業設備を整備・更新して資本の活用を図るもののうち、土地政策又は国土政策に合致する買換えに限って課税の特例を認めることになった経緯のほか、法人税法に規定する資産の譲渡による所得の本来の課税方式の例外的特別措置であることをも考え合わせると、措置法六五条の六第四項の「当該法人の事業の用に供した」との解釈適用は、右趣旨に照らし狭義かつ厳格にすべきものと解するのが相当である。

4  そして、本件において、本件買換資産の取得の経緯及び使用状況は、前記認定のとおりであるが、同事実によれば本件買換資産は、<1>原告が自ら使用している部分のほかに、<2>久保田鉄工がクボタグリーンから賃借した別紙物件目録二の建物及び同建物に付属する土地等で資材等の保管場所として使用している部分、<3>クボタグリーン及び久保田鉄工において右賃貸借物件以外の土地で無償で使用していた部分に区分される。

なお、被告は、本件買換資産全部を原告がクボタグリーンに賃貸した旨力説するが、前記認定のように、右当事者間の前記賃貸借契約及び覚書において本件買換資産全部を賃貸借の目的としたものでないこと、賃料一〇〇万円の決定も別紙物件目録二記載の建物及びその敷地等に限って決定していること、クボタグリーンないし久保田鉄工において本件買換資産全部を使用する必要性があったことは認められないことなどからすると、原告とクボタグリーンとの間においては本件買換資産を右賃貸借契約書及び覚書どおりに貸借したものといわなければならない。

そこで、次に、右使用状況が原告の「事業の用に供した」といえるかどうかにつき順次検討する。

(一)  まず、原告使用部分についてであるが、前記認定のようにその時期、意図はともかくとして、原告は前記建物の一部及びその付近空地の一角においてその事業目的である合成樹脂の製造に必要な機械類等を保管していたものであるが、前記証拠によると、原告自らの使用状況は本件買換資産の従前の使用状況に変化支障を来たさない範囲内のものであり、とりわけ右建物の一部分の使用は、原告が久保田鉄工に懇請して同社の使用に支障がない所を使用していたにすぎないこと、右使用のために原告とクボタグリーンとの間において賃料の修正をしていないこと、保管している機械類の一部にはスターラバー所有のものも含まれ原告自らの使用とは認められないこと、使用面積は本件買換資産全面積の一〇パーセントに満たない(その区分特定もされていない)こと、同所の管理はクボタグリーンが行っており、原告自身同所に出入りするにはクボタグリーンの承認が必要であったこと、原告が本件買換資産を自ら使用するにはその管理状況とその位置関係などからみて常時容易にできるような状況にはなかったこと等が認められ、むしろ原告のその使用状況は後記認定のとおり課税の特例をうけるために急いで取得した本件買換資産のごく一部分を同特例をうけるために使宜上使用している(原告はスターラバーに賃貸するために取得したと主張するが)もので、これにより、本件特例の立法趣旨である産業設備の整備、更新、又は工場移転による産業立地の改善促進による資本の活用がはかられたとはいえず、したがって、原告の右使用部分に限ってみても右使用状況からは、原告の本来の事業である経営活動のために利用されたもの、すなわち「事業の用に供した」ものとは到底認められない。

(二)  次に、原告がクボタグリーンに賃貸した部分についてであるが、前記証拠によると、原告の事業目的として不動産の賃貸があげられていないこと、しかし現実には不動産賃貸の事業を行っていたが、その規模はオリエンタル商事有限会社時代の四五年度ないし四八年度の各事業年度における利益の大半が土地の売却益及び家賃収入で占められていたのに対し、組織変更後の四九年度及び五〇年度の各事業年度の利益においては商品売上金額五二一三万三〇三七円、二六三二万六二四〇円に対し、賃料及び敷金収入を合計したものは、それぞれ三二九万七一三九円、三二九万七一三九円となり、その収入の占める割合が相当減少していること、原告は課税の特例をうけるため急いで本件買換資産の売買契約をしたこと、原告が本件買換資産をクボタグリーンから売買により購入と同時にクボタグリーンに賃貸し、使用状況も右売買・賃貸借の前後を通じて変化がなかったこと、久保田鉄工、したがってクボタグリーンの賃借期間にせいぜい三年で終了することが当初から予定され、その終了時には遡及効果が認められ、金銭の授受、物件移転等については、はじめからなかったこととする約定が交わされていたこと、事実、昭和五二年一月ころから原告とクボタグリーンとの間において金銭の授受が中止され、同年八月二七日には賃貸借契約が合意解除されたこと、さらに、賃貸料につき原告主張の事情を加味して計算しても別紙一覧表記載のとおり月額一〇〇万円(年額一二〇〇万円)では利益よりは欠損が生じることが認められ、右事実によると、本件買換資産の賃貸借は相当の対価をえて反復継続的に行われたというよりは、被告主張のように一時的・暫定的にしかも負担付きで行われたともいえるので、原告は同賃貸により整備更新により産業設備の合理化、近代化ないし産業立地の改善等資本の活用をはかったものとはいえず、したがって、原告は、「事業の用に供した」ものとは到底認められない。

(三)  最後に、クボタグリーン及び久保田鉄工において右賃借物件以外の土地を無償で使用していた点であるが、右法律関係は使用貸借と認められるところ、前記証拠によると、同所は遊休状態であったことが認められるのであるから、本件課税の特例を認めた趣旨からはこれが到底原告の「事業の用に供した」とはいえない。

5  以上、本件買換資産の使用状況からすると、原告は本件買換資産をいかなる意味においても「事業の用に供した」ものとは認められない。

四  本件更正処分の理由

1  成立に争いのない乙第二五ないし第二七号証及び弁論の全趣旨によると、神戸税務署長は、昭和五三年一月三一日付けで原告の本件係争事業年度の法人税の更正処分等をしたこと、その理由は、本件買換資産の譲渡人であるクボタグリーンに同物件を貸し付けているのは原告の事業の用に供したことにならないからであるとされたこと、神戸税務署長は、昭和五三年五月四日付けをもって、原告の本件係争事業年度につき再度更正処分等をしたこと、その理由は、原告が本件買換資産をクボタグリーンから取得し同日取得先であるクボタグリーンに月額一〇〇万円で賃貸していることは事業の用に供したものではないこと、及び土地の一部に置かれていた材料スクラップは原告の仕入・棚卸資産に計上なくスターラバーのスクラップ置場として無償で一時使用させていたもので原告の事業目的である合成樹脂製品等の製造販売の事業の用に供していないことの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  本件取消訴訟の対象となっている処分は、昭和五三年五月四日付け更正処分等であるから、同更正処分等の理由を被告においてさしかえたかどうかを検討する。

本件における被告の主張は、原告は本件買換資産の従前の利用状況を変えていないことから本件特例の立法趣旨に合致していないこと、原告とクボタグリーンとの間の本件買換資産の貸借関係は、一時的な使用貸借にすぎないこと、仮に無償でないとしても月額一〇〇万円は相当の対価でないから負担付使用貸借にすぎないこと、あるいは、右貸借は一時的・臨時的で継続的でないことから、原告は、本件買換資産を事業の用に供していないというにあるものと解される。

右主張は、前記昭和五三年四月付け更正処分等の理由とした本件買換資産を「事業の用に供した」といえないことの内容を、本件買換資産の使用状況と貸借関係の法的評価の観点から詳細に述べ同更正処分が適法であることを主張したにすぎないものというべきである。したがって、被告において、処分理由として記載したところと異なる新たな主張をしたものということはできない。

なお、被告の租税負担回避の主張は、本件買換資産の売買及び賃貸借の目的との関係で主張することともに、原告会社代表者の供述を弾劾する主張と理解でき、被告において新たな主張をしたものとは解されない。

したがって、本件において理由をさしかえたとの原告の主張は理由がない。

五  以上のとおり、本件更正処分において本件買換資産の取得につき措置法六五条の七第六項(同法六五条の六第四項の準用)により圧縮相当額を益金の額に算入したのは、適法であるというべきである。

そして、原告の本件係争事業年度における申告所得金額が、欠損金八三八万七七二五円であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二五ないし第二七号証、第三六、第三九及び第四二号証の二並びに弁論の全趣旨を総合すれば、益金の額に算入すべき圧縮相当額は一億三一九三万三七三三円(その計算式は被告主張の別紙計算式のとおりであるが、建物についての計算は四〇三九万七九八三円の計算違いと認める。ただし、少数点以下切捨て。)、五〇年度における繰越欠損金額一七五五万二七二四円であることが認められ、差引合計すると原告の本件係争事業年度における所得金額は、一億〇五九九万三二八四円となり、この範囲内でした本件更正処分(一億〇〇九九万三二七九円)は、適法である。

また、右により、基礎税額が増加するので過少申告加算税額も本件賦課決定処分の額(二一五万五三〇〇円)を上回ることは明らかで、同処分も適法である。

六  結論

よって、本件処分は適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 小林一好 裁判官 横山光雄)

別紙

物件目録

一 土地

小野市高田町字惣山

一八三六番一二一、同番一三〇、同番一三三、同番一三六、同番一四五

右五筆合計一万二九九〇・八二平方メートル 一億六四一六万円

二 建物

右一八三六番一二一、同番一三三、同番一三六地上

鉄骨造スレート茸平家建工場 二二三七・一六平方メートル

同地上

鉄骨造セメント板茸二階建 一階二階とも各三〇五・〇二平方メートル

三 右土地・建物に付帯するもの

建物付属設備、構築物、器具備品

二及び三小計一億〇一八四万円

一ないし三の合計二億六六〇〇万円

別紙

計算式

A…圧縮記帳により損金の額に算入されて金額

B…当該損金の額に算入された金額にかかる買換資産のその取得の日における価額

C…当額損金の額に算入された金額にかかる買換資産のその取得の日における価額のうち事業の用に供しない部分のその取得の日における価額

D…前記Bに規定する買換資産のその取得の日から1年を経過する日における取得価額

E…前記Dに規定する買換資産のその取得の日から1年を経過する日における帳簿価額

 土地について

<省略>

 建物について

<省略>

別紙一覧表

<省略>